投稿・コラム

製造業の許認可・契約書類型と注意事項

はじめに

 製造業は、食料品製造業やタバコ製造業、飲料・タバコ・飼料製造業、繊維工業、木材・木製品製造業などその業種は多種多様であり(日本標準産業分類・総務省HP)、これら製造業の事業活動に必要な許認可手続や契約書には様々なものがあります。
 
 本稿では、多くの製造業に共通し、多くの場面で利用する機会のある許認可手続きや製造業における典型的な契約書類の紹介とその注意点、また製造業の事業活動にとって弁護士のサポートを活用すべき場面についてご紹介致します。

必要となる許認可の典型類型

製造業で必要となる典型的な許認可書類及び許認可権者は次の通りとなります。

酒類製造免許

 酒類の製造業を営むときは、事前に製造しようとする酒類の品目別に、当該製造業の所在地を管轄する税務署長の免許を受ける必要があります。申請書類として「酒類製造免許申請書」のほか誓約書などの添付書類が必要となります。
 
 申請に際しては、予め原料入手先や製造方法等を決めて、収支見込を想定しておく必要があります。
 また、申請の際に、税務署より資金調達の確認のため、預金残高証明書や融資証明書等の提出を求められる場合があります。

 酒類製造免許に関する各申請書の様式はこちらをご覧下さい(国税庁HP参照)。

医薬品・医薬部外品・化粧品製造許可

 医薬品・医薬部外品・化粧品の製造を業として行う場合には、事前に厚生労働省令で定める区分に従い、製造所ごとに、厚生労働大臣の許可を受ける必要があります。
 申請書類として「医薬品・医薬部外品・化粧品・再生医療等製品製造業許可申請書」のほか、他の製造業の許可又は登録を受けている場合にはその写し等の添付書類が必要となります。
   
 福岡県の医薬品・医薬部外品・化粧品製造許可に関する各申請書の様式はこちらをご覧下さい(福岡県HP参照)。

毒物・劇物製造登録

 毒物又は劇物の製造又は輸入を行おうとする場合には、製造業者にあっては製造所、輸入業者にあっては営業所ごとに、その製造所又は営業所の所在地の都道府県知事を経て、厚生労働大臣に登録の申請を行う必要があります。
 申請書類として「毒物劇物製造業・輸入業登録申請書」のほか製造所又は営業所の平面図、設備の概要図などの添付書類が必要となります。
 登録を受けるためには、毒物又は劇物を直接取り扱う製造所、営業所又は店舗ごとに、専任の毒物劇物取扱責任者を設置する必要があることに注意しなければなりません。 

 毒物・劇物製造登録申請に関する各様式はこちらをご覧下さい(福岡県HP参照)。

ばい煙発生施設の届出

 ばい煙を大気中に排出する者が、ばい煙発生施設を設置しようとする場合には、環境省令で定めるところにより、所定の事項を都道府県知事(政令市の長)に届け出る必要があります。
 申請書類として「ばい煙施設設置等届出書」のほか排出基準計算書やばい煙発生施設構造概要図などの添付書類が必要となります。 

 大気汚染防止法・悪臭防止法に関する届出の各様式はこちらをご覧下さい(福岡市HP参照)。

水質汚濁防止法上の特定施設の届出

 公共用水域に水を排出する工場や事業場など特定施設を設置する場合には、環境省令で定めるところにより、所定の事項を都道府県知事(政令市の長)に届け出る必要があります。
 申請書類として「特定施設(有害物質貯蔵指定施設)設置(使用・変更)届出書」のほか工場案内図や処理施設、関連主要施設の配置図などの添付書類が必要となります。

 水質汚濁防止法上の特定施設の届出に関する各様式はこちらをご覧下さい(福岡市HP参照)。

騒音規制法上の特定施設の届出

 指定地域内に金属加工工場等、騒音を発生させる特定施設を設置する場合には、その特定施設設置工事開始の日の30日前までに、環境省令の定めるところにより、所定の事項を市長村長に届け出る必要があります。申請書類として「特定施設設置届出書」のほか特定工場等及びその付近の見取図や特定施設の配置図などの添付書類が必要となります。  

 騒音規制法上の特定施設の届出に関する各様式はこちらをご覧下さい(福岡市HP参照)。

製造業における典型的な契約形態

 製造業で多く用いられる契約類型として、製造委託契約OME契約ODM契約共同開発契約などを挙げることができます。各契約についてその概要を簡単にご紹介致します。

製造委託契約とは

 製造委託契約とは、委託者が受託者である製造業者に対し、物品等の製造を委託する契約のことをいいます。業務委託契約の製造業バージョンと考えるとイメージがしやすいかもしれません。製造委託契約には、さらに委託製造(加工)契約製造物供給契約に分類することができます。

委託製造(加工)契約とは

 委託製造(加工)契約とは、製造・加工など仕事の完成を目的とする請負契約の一種であり、委託者が受託者に原材料を提供し、受託者がこれを製造・加工した上で委託者に引き渡す契約のことをいいます。
 委託製造(加工)契約では、受託者に製造品を提供した後も、原材料の所有権は委託者に残ることになるため、受託者による原材料の管理・保管中に生じる盗難・紛失等のリスクの帰属先や、加工工程で発生するコスト(原材料のロスなど)の分担について、明記しておくことが大切です。

製造物供給契約とは

 製造物供給契約とは、請負契約と売買契約の両方の性質を有する混合契約の一種であり、受託者自らが原材料を調達して製造・加工し、製造・加工後の物品等を委託者に供給する契約のことをいいます。
 製造物供給契約は、物品の製造・加工という請負的要素と物品の引渡しという売買的要素の両要素が混在しているため、請負又は売買のいずれとして扱うかにより、民法の適用関係に若干の相違が生じることに注意が必要です。

OEM契約・ODM契約とは

OEM契約とは

 OEMとは Original Equipment Manufacturing の略であり、製造委託契約の一種とされており、受託者が製造した製品に、委託者の商標、商号その他のブランド表示を付して供給する、相手先ブランド製品の供給契約の総称のことをいいます。
 
 OEM契約では、受託者が製造・加工した製品が委託者などのブランドの元に顧客に販売され、製品の品質が、委託者の信用に大きな影響を与えることとなるため、製品の品質保証や品質管理、製品に付される商標、商号等の取扱い、第三者との間で発生した場合の取扱いについて明記しておくことが大切です。

ODM契約とは

 ODMとは Original Design Manufacturing の略であり、OEM契約の派生類型とされており、受託者が製造する製品の企画・設計・開発までを受託し、これらについて委託者に提案し、委託者と製品の仕様等をすり合わせた上で製造する契約のことをいいます。
 
 OEM契約、ODM契約を問わず、製造される製品の仕様及び仕様の変更は、書面で詳細かつ明確に取り決める必要がありますが、第三者との商標に関する紛争においては、委託者の商標を使用するため、原則として委託者が解決責任を負うことになります。ODM契約の場合は、製造者が製造設計から行うことになるので、委託者の具体的な指示に起因するものを除いて、一般的に製造者が解決責任を負うことになる点に注意が必要です。

共同開発契約とは

 共同開発契約とは、自社単独開発に必要となるコストを考慮して、契約当事者双方がノウハウ・知見、設備等を持ち寄りながら、共同して新たな技術や製品等の開発を行うために締結する契約のことをいいます。
 
 共同開発契約では、共同開発した新たな技術・製品に関する知的財産権の帰属やその運用・管理方法、共同開発に要したコストの負担方法、共同開発契約が途中で解消した場合の成果物の帰属などについて明記しておくことが必要です。

弁護士のサポートを活用すべき場面

製造物責任と関係

製造物責任とは

 製造物責任とは、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合に製造業者等が負うことになる損害賠償責任のことをいいます(製造物責任法1条、3条)。
 
 欠陥とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます(製造物責任法2条2項)。
 
 製造物責任は、実際に製造・加工した者のほか、自ら製造物業者として製造物に氏名・商号・商標を表示した者等も負うことになります(製造物責任法2条3項2号)。

弁護士のサポートを活用する場面

 製造物責任は、ユーザーへの手厚い保護があるため、予め欠陥品発生による責任の所在を明らかにしておく必要がありますが、具体的な措置・対応については、微妙な事実認定や法的な判断が必要となるため、予防措置や対応のマニュアル作成は容易ではありません。
 製造物責任の問題発生に備えて、弁護士のサポートを受けながら、予防・対応策を講じておくことが大切です。

独占禁止法(独禁法)との関係

不公正な取引方法の禁止

 不公正な取引方法とは、公正競争を阻害するおそれのあるもののうち、独禁法2条9項1~5号に列挙される行為並びに同2条9項6号に列挙される行為に該当しかつ公正な競争を阻害するおそれのあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいいます。不公正な取引方法は、私的独占、不当な取引制限とともに独禁法で禁止される行為の一つとされています。
 
 共同開発契約の締結に当たっては、知的財産権の帰属やライセンスの方法等の条項が、上記不公正な取引方法(独禁法2条9項)に該当する可能性があります。たとえば、共同研究開発のテーマ以外のテーマの研究開発を制限したり、研究開発による製造物の第三者への販売価格・手段等を制限することは、不公正な取引方法に該当する可能性があるので注意が必要です。

弁護士のサポートを活用する場面

 このように共同開発契約の締結にあたっては、知的財産権だけでなく、独禁法など経済法規にも注意を払わなければなりません。適法な共同開発契約の作成・締結に当たっては知的財産や経済法関連に詳しい弁護士のサポートを受けながら進めていくことが大切です。

その他

アフターサービスの構築など

 製造物責任や知的財産権の管理に関する問題以外にも、製造物の製造の中止を行う場合や事業を廃止する場合等に、製造物のユーザーや取引先などの利害関係人に対して、製造物の利用について支障が生じないように努めることが必要となります(たとえば、製造物の中止の告知、修理方法、連絡先の案内などです)。
 また、環境問題に対するコンプライアンス意識も高まっており、事業の開始・継続・廃止に際して必要な許認可等の適正な手続きを遵守することも必要となります。

弁護士のサポートを活用する場面

 これらアフターサービスの具体的な内容の検討や事業活動に必要な手続きを遵守するには、弁護士のリーガルチェック等のサポートを受けながら進めていくことが大切です。

福岡の顧問弁護士をご検討の方へ

 本稿では、多くの製造業で必要となる許認可手続き典型的な契約類型弁護士のサポートが有用なケースについて解説致しました。
 製造業の事業活動に関する諸問題は、本稿で挙げた以外にも、取引先への債権回収や、安全衛生管理体制、従業員の労災問題、後継者問題、訴訟案件など多種多様であり、これらの予防措置や迅速・適切な対応には弁護士など専門家のサポートがあると安心です
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