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労働者派遣とは、労働者派遣法第2条第1号により「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」をいうと規定しています。
労働者派遣の特徴は、労働者と派遣元との間に労働契約関係が認められ、労働者派遣が派遣法の枠組みに従って行われる限り、派遣先と派遣社員の間には労働契約関係が生じない点が挙げられます。
派遣労働者にも当然に労働基準法、労働安全衛生法等の労働関係法令が適用され、原則として、派遣労働者と労働契約を交わしている派遣元がその責任を負います。同時に、派遣労働者を指揮命令して業務を行わせるのは派遣先であるため、一部の規定については派遣先が責任を負うこととなっています。
労災保険法に関しては、労災保険法第3条第3項は、「労働者を使用する事業を適用事業とする」と規定しており、この「使用する」は労働基準法等における「使用する」と同様、労働契約関係にあるという意味だと考えられています。
また、労基法上の災害補償責任が派遣元に課されていることから、労災保険法と労基法との関係を考慮し、労災保険法の適用についても同様に取り扱い、派遣元が労災保険の適用事業とされています。
安全配慮義務とは、一言でいえば、使用者が労働者の生命や健康などを危険から保護するよう配慮する義務のことをいいます。
安全配慮義務は、契約上の債務以外にも、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った場合には、当該法律関係に付随する義務として信義則上負担することが求められるものです。
安全配慮義務の内容について、判例上も、(使用者は)労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体などを危険から保護する義務を負っており、その具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所など安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであると判断しています(最三小判昭59・4・10・民集38・6・557参照)。
安全配慮義務は、使用者が業務遂行のために利用される物的施設や人的組織の管理を十全に行う義務とも考えられており、安全配慮義務の根拠は使用者による労務の管理支配性に根拠があると考えられています。
そのため、使用者が安全配慮義務を全うしていることが前提と考えられ、使用者の安全配慮義務の内容を特定し、かつ、安全配慮義務違反に該当する事実を立証する責任を負うのは、安全配慮義務違反を主張する側(原告)である労働者にあることになります。
派遣労働者は派遣先の指揮命令のもと業務に従事しますが、派遣労働者と労働契約を結んでいるのは派遣元になります。そのため、派遣元が、派遣労働者に対して、労働契約に付随する義務として安全配慮義務を負うことになります(労働契約法第5条)。
もっとも、安全配慮義務は、契約に付随するだけでなく、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間に認められる義務でもあるため、派遣先と派遣労働者との間に、派遣元と派遣労働者間で交わした労働契約に基づいた特別な社会的接触関係が認められると言える場合には、派遣先も信義則上、安全配慮義務を負うことになります。
実務上、元請企業に下請企業の従業員に対する安全配慮義務を肯定した判例(三菱重工業神戸造船所事件・最判一小平3・4・11・判時1391・3)や元請企業に孫請企業の従業員に対する安全配慮義務を肯定した裁判例(エムテックほか事件・髙松高判平21・9・15・労判993・36)などから分かるように、当事者間に直接の労働契約関係がなくとも、労務の管理支配性や実質的指揮監督関係など社会通念に照らして労働契約関係に準じる関係があると評価できる場合には、安全配慮義務が肯定される取扱いとなっています。
派遣先は派遣労働者に対して、施設・設備を提供して指揮命令をし、作業を管理していることから、派遣先にも派遣労働者に対して労務の管理支配性や実質的指揮監督関係が認められます。そのため、派遣先も派遣労働者に対して信義則上、安全配慮義務を負うことになります。
派遣先は、労働者派遣契約に定められた就業条件に違反することがないように、適切な措置を講ずることが義務付けられています(労働者派遣法第39条)。派遣先の「適切な措置」について、厚労省公表の「派遣先が講ずべき指針」では「労働者派遣契約を円滑かつ的確に履行するため、次に掲げる措置その他派遣先の実態に即した適切な措置を講ずること」として、以下の措置が列挙されています(派遣先指針第2-2)。
1.労働者派遣契約で定められた就業条件の関係者への周知徹底
2.派遣労働者の就業場所の巡回による就業状況の確認
3.派遣労働者を直接指揮命令する者からの就業状況の報告
4.労働者派遣契約の内容に違反しないよう、直接指揮命令する者へ指揮の徹底
これらの措置に強制力はありませんが、措置を講じないために労働災害が発生した場合には、派遣先に労働者派遣法違反や安全配慮義務違反などの責任を問われる可能性があります。派遣先は、労働者派遣契約違反の事実を知った場合、早急に是正し、違反した者や派遣先責任者に契約遵守のための措置を講じるなど、適切な対応をする必要があります。
安全衛生管理体制の未整備により、派遣労働者の生命・身体等に損害が発生した場合には、派遣先は安全衛生管理義務違反による責任を負担する可能性が大きくなります。派遣先は、上記のような派遣労働者の就業条件を確保するだけでなく、派遣労働者の生命・身体等を保護するために、労働者派遣契約に付随する信義則上の義務として、以下のような措置を講じ安全衛生管理体制を整備しておくことが必要です。
派遣先は、派遣労働者を含め算出した常時使用する労働者数に応じて、安全管理者、衛生管理者、産業医などを専任し、派遣労働者の安全衛生に関する事項も含め、必要な職務を行わなければなりません。また、派遣先は、安全衛生委員会などを設置し、派遣労働者の安全衛生に関する事項も含め、必要な調査審議を行う必要があります。
なお、常時50人以上の労働者(派遣労働者を含みます)を使用するすべての事業場は、衛生管理者、産業医を選任する必要があります。
派遣先は、機械等の安全措置など派遣労働者の危険又は健康障害を防止するための措置を講じておかなければなりません。
例えば、プレス機械作業における危険又は健康障害の防止措置としては、プレスにより挟まれる災害を防止するための安全装置の設置や強烈な騒音を発する場合の防音保護具(耳栓)の支給などが挙げられます。
派遣先は、派遣労働者が従事する作業について、危険性又は有害性等の調査を実施し、その結果に基づき、機械の本質安全化や化学物質のばく露防止などの措置を講じる必要があります。
作業に伴う危険性又は有害性を洗い出し、リスク(負傷又は疾病の重篤度と発生可能性を組み合わせたもの)を評価するもので、リスクの大きなものを優先して適切なリスク低減措置を講じることにより、効果的に災害を防止することが期待されます。
派遣先は、派遣元による雇入れ時の安全衛生教育について、その実施結果を派遣元に書面等で確認する必要があります。
また、派遣先は、派遣労働者が異なる作業に転換したときや作業設備、作業方法などに大幅な変更があったときなどは、作業内容変更時の安全衛生教育が必要となります。
さらに、派遣先は、派遣労働者を一定の危険又は有害な業務に従事させることがあるときは、立入禁止場所等の派遣先において禁止されている事項について周知させるなど、派遣労働者がその業務に関する特別教育を既に受けた者かを確認し、必要な特別教育を行う必要があります。特別教育を実施した場合、その結果を派遣元に書面等により報告することになります。
なお、特別教育を行わなければならない危険又は有害な業務の例として以下の業務が挙げられます。
1.クレーン(つり上げ荷重5トン未満のもの)、移動式クレーン(つり上げ荷重1トン未満のもの)の運転
2.玉掛け作業(つり上げ荷重1トン未満のクレーン、移動式クレーンに係るもの)
3.フォークリフト等荷役機械(最大荷重1トン未満のもの)の運転
4.動力プレスの金型等の取付け、取外し、調整
5.アーク溶接等
派遣先は、就業制限業務に従事する派遣労働者に対し、当該業務に関する資格を有していることが必要となります。 就業制限業務の例として、以下の業務が挙げられます。
1.クレーン(つり上げ荷重5トン以上のもの)の運転
2.移動式クレーン(つり上げ荷重1トン以上のもの)の運転
3.玉掛け作業(つり上げ荷重1トン以上のクレーン、移動式クレーンに係るもの)
4.フォークリフト等荷役機械(最大荷重1トン以上のもの)の運転
5.ガス溶接
派遣先は、派遣労働者が従事する作業について安全な作業マニュアルや手順書を作成し、同マニュアルや手順書に従った作業が行えるよう、作業状況を確認する者を定め、その者に必要な指揮を行わせる必要があります。
派遣先は、立入禁止場所や危害を生ずるおそれがある箇所などには、標識や警告表示の掲示を行う必要があります。
派遣先は、派遣労働者を放射線業務など一定の有害業務に常時従事させる場合には、雇入れの際や配置替えの際、その後は定期に、特殊健康診断を実施し、その結果に基づく事後措置を講じる必要があります。特殊健康診断を実施した場合には、同健康診断実施の結果の写しを派遣元に送付しなければなりません。
また、派遣先は、一定の有害業務を行う派遣労働者の作業記録を作成・保存するとともに、派遣労働者に係る情報を共有し安全衛生管理を十全化するために、当該記録を派遣元に提供する必要があります。
派遣先は、派遣労働者を含めた一定規模の集団ごとにストレスチェック結果を集計・分析し、その結果に基づく措置を実施することが望まれます。
一般健康診断や長時間にわたる労働に関する面接指導等の結果に基づく就業上の措置や、心の健康に関する情報を理由とする就業上の措置について、派遣元から派遣先に、その実施に協力するよう要請があったこと等を理由として、派遣労働者の変更を求めることなど、派遣先は、派遣労働者の健康に関する情報に基づく不利益な取扱いをしてはいけません。
派遣先は、「労働者死傷病報告」という報告書を作成し、派遣先事業場を所轄する労働基準監督署長に提出する必要があります。また、上記報告書の写しは、派遣元に送付する必要があります。
派遣先は、労働者派遣契約に従って派遣労働者を労働させる場合には、派遣労働者の健康と安全が害されることがないよう、定期的に連絡調整を行うなど派遣元と連携し、以下のような措置を講じる必要があります。
派遣先だけでなく、雇入れ時や職務内容変更時の場合には、派遣元にも安全衛生教育の実施が必要となります。先にも述べた通り、派遣先は、派遣元が適切な安全衛生教育が行えるように、派遣労働者が従事する業務に関する情報を提供するなど、安全衛生教育の実施に協力する必要があります。
派遣先は、派遣労働者が従事することが予定されている特別教育が必要な一定の危険又は有害な業務及び就業制限業務に係る派遣労働者の資格の有無等を確認し、必要な資格等がない者がこれらに従事することがないよう、派遣元と十分な連絡調整が必要となります。
派遣先は、派遣労働者が派遣元の実施する一般健康診断を受診できるよう配慮する必要があります。
たとえば、派遣労働者の労働時間に加え、必要に応じて、その勤務状況や職場環境に関する情報を提供することや、派遣元の要請に基づく就業上の措置を講じることなどが例として挙げられます。
また、派遣先は、派遣労働者が、派遣元の実施する長時間労働に関する面接指導を受けられるよう配慮する必要があります。
一般健康診断の場合と同じように、派遣労働者の労働時間に加え、必要に応じて、その勤務状況や職場環境に関する情報を提供することや、派遣元の要請に基づく就業上の措置を講じることなどが例として挙げられます。
派遣労働者が被災した場合には、派遣先は、派遣元での安全衛生教育への活用や同種業務への派遣労働者へ情報提供が行えるよう、派遣元に対し、当該労働災害の原因や対策について必要な情報を提供し、再発防止対策に協力する必要があります。
本稿では、派遣労働契約における派遣先事業者の講じる措置について紹介しました。
本稿で述べたように、派遣先も派遣労働者との関係では信義則上、安全配慮義務を負うため、労災の発生防止のために適切な措置を講じなかった結果、派遣労働者が被災した場合には派遣先も安全配慮義務違反による損害賠償責任を負う可能性があります。
派遣先において労災の発生を適切に予防するためには、本稿で挙げた安全衛生確保措置だけでなく、事業の種類や内容、当該派遣労働者の従事する業務内容等に応じた安全衛生管理体制の整備が必要となりますが、派遣労働者のための適切な安全管理体制の整備は、労働基準法や労働安全衛生法、労働者派遣法をはじめ労働関係法令に精通した専門家の意見、助言を聞きながら進めることが大切です。
弁護士法人いかり法律事務所には、これら労働関係法令に精通した弁護士が多数在籍していますので、派遣労働者に関する安全衛生管理体制の整備について少しでも気になることがあれば、まずは無料法律相談をご予約のうえ、お気軽にご相談下さい。
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