投稿・コラム

建設業・造船業における安全衛生管理体制

特別な安全衛生管理体制の設置義務

 建設業や造船業では、元請業者、下請業者のもとで多くの労働者が同一の場所で一緒になって作業を行っていますが、異なる事業者に使用される労働者間に連携不足があると、労働災害が発生するおそれが高まります。
 元請業者、下請業者がそれぞれ設けている安全衛生管理体制とは別に、請負関係にある事業者すべてに関連する特別の安全衛生管理体制を設ける必要があるのです。

 事業者は、どのような場所で、どのような内容の仕事をしているのか、どのような役割の責任者を選任しなければならないのか、これら「人」に着目した安全衛生管理体制の構築が求められています。

 本稿では、建設業や造船業の事業者が構築すべき安全衛生管理体制について、その概要をご紹介致します。

統括安全衛生責任者の選任

1.統括安全衛生責任者とは

 統括安全衛生責任者とは、一言でいえば、請負組織における安全衛生管理体制の最高責任者のことをいいます。

 特定元方事業者と呼ばれる建設業および造船業の事業者は、統括安全衛生責任者を、元方事業者(事業の一部を請負人に請け負わせている者のこと)の従業員や関係請負人の作業が同一の場所で行われることによって発生する労働災害を防止するために選任します。 

 統括安全衛生責任者を選任するためには、同一の場所で作業を行う労働者や関係請負人の労働者数の合計が、常時50人以上であることが必要とされます。関係請負人同士が同一の場所で働き、連携不足などから発生する労働災害の発生を防止するために人数要件が課されています。

 なお、特に危険性が高いトンネル工事などの作業を行う場所では、労働者の合計が常時30人以上である場合にも統括安全衛生責任者の選任が必要となります。

2.職務内容

 まず、統括安全衛生責任者は、元方安全衛生管理者の指揮を行う必要があります。
 元方安全衛生管理者とは、後述のとおり、建設現場で技術的事項について統括安全衛生管理者を補佐する専門家のことをいいます。 

 つぎに、統括安全衛生責任者は、以下のとおり、特定元方事業者が講じなければならない措置を統括管理しなければなりません。
 
① 協議組織の設置及び運営
② 作業間の連絡及び調整
③ 作業場所の巡視(毎作業日に少なくとも1回)
④ 関係請負人が行う労働者の安全又は衛生教育に対する指導及び援助、建設業での仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置に関する計画の作成などの措置

3.選任手続

 統括安全衛生責任者の選任が必要となる場合には、作業開始後、遅滞なく、その旨及びその氏名を、当該作業場所を管轄する労働基準監督署長に報告しなければなりません。

 労働災害の発生率が他の同規模の同業種と比べて高く、その原因が統括安全衛生責任者の不適切な指揮に基づくものと考えられる場合には、労働災害の発生を防止するため、都道府県労働局長は、当該統括安全衛生責任者を選任した特定元方事業者にその変更等を勧告することができます。

元方安全衛生管理者の選任

1.元方安全衛生管理者とは

 元方安全衛生管理者とは、建設現場における技術的事項に関する責任者のことをいい、いわば、建設現場のNo.2です。

 建設業及び造船業における安全管理体制のトップは、統括安全衛生責任者とされていますが、統括安全衛生責任者になるために特別な資格は必要なく、事業の実施を実質的に統括する者が(統括安全衛生責任者に)選任されるため、しばしば専門技術的な事項について知識に欠けることがあります。 

 そのため、元方安全衛生管理者には、統括安全衛生責任者の建設現場における技術的事項に関する知識を補うことが期待されています。 
 
 なお、元方安全衛生管理者となるためには、大学等における理科系統の正規の課程を修めて卒業した者で、その後3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者や、高等学校等において理科系統の正規の課程を修めて卒業した者で、その後5年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者など一定の資格が必要とされています。

2.職務内容

 元方安全衛生管理者の職務内容は、先に挙げたように、統括安全衛生責任者の統括管理する事項のうち技術的事項を管理することとなります。

3.選任手続

 元方安全衛生管理者の選任が必要となる場合には、作業開始後、遅滞なく、その旨及びその氏名を、当該作業場所を管轄する労働基準監督署長に報告しなければなりません。統括安全衛生責任者の選任手続と同じです。 

 労働災害の発生率が他の同規模の同業種と比べて高く、その原因が元方安全衛生管理者の不適切な指揮に基づくものと考えられる場合には、労働災害の発生を防止するため、労働基準監督署長は、当該元方安全衛生管理者を選任した特定元方事業者に対して、その増員又は解任を命ずることができます。
 
 勧告ではなく、増員又は解任命令という強い権限が与えられているのは、元方安全衛生管理者の不適切な指揮は、その専門技術的立場から労働災害の発生の危険性がより高まると考えられているからです。

店社安全衛生管理者の選任

1.店社安全衛生管理者とは

 店社安全衛生管理者とは、一言でいえば、統括安全衛生責任者を選任する規模にない建設現場における統括安全衛生責任者に代わる責任者のことをいいます。そのため、店社安全衛生管理者が選任される場合には、当該建設現場に統括安全衛生責任者はいません。

 店社安全衛生管理者は、ずい道(トンネル)や橋梁などの労働災害発生の危険性の高い建設現場などで常時20人以上30人未満の労働者を使用する場合などに選任することが必要とされています。30人以上の場合には、店社安全衛生管理者ではなく、統括安全衛生責任者の選任が必要となります。

 なお、店社安全衛生管理者は、統括安全衛生責任者と異なり、大学を卒業した者で、その後3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者や、高等学校等を卒業した者で、その後5年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験を有する者など一定の資格が必要とされています。

2.職務内容

 店社安全衛生管理者は、中小規模の建設現場で統括安全衛生責任者の代わりに選任される者であることから、職務内容も統括安全衛生責任者と同様、本稿第2の2で挙げたような職務を行う必要があります。
 
 具体的には、特定元方事業者の講ずべき措置を担当する者への指導毎月1回の作業現場の巡視協議組織への会議の参加などが挙げられます。

3.選任手続

 店社安全衛生管理者の選任が必要となる場合には、作業開始後、遅滞なく、その旨及びその氏名を、当該作業場所を管轄する労働基準監督署長に報告しなければなりません。
 
 統括安全衛生責任者の選任手続と同じですが、統括安全衛生責任者と異なり、業務執行の指揮が不適切な場合に都道府県労働局長による勧告の規定はありません。

安全衛生管理体制の整備は専門家に

 労働者の安全と健康を守るために、まずは事業者がそのための仕組みを事業場ごとに作る必要があります。
 しかし、実際には、組織的、経済的な理由などから十分な安全衛生管理体制が整備されないまま作業が行われているケースがあります。 

 労働災害の発生を防止し、損害が発生してもその拡大を防ぐために、適切な安全衛生管理体制の構築が重要なのは言うまでもありませんが、その前提として、安全衛生管理体制に精通した専門家のアドバイスが不可欠です。
 具体的には、労働安全衛生法をはじめ労働法務に精通した弁護士など専門家の助言を受けながら上記体制を整備していくことが必要です。 

 弁護士法人いかり法律事務所には、労働法務に精通した弁護士が多数在籍しています。労働災害発生のために必要な組織編制のチェックなど労働法務について気になることがありましたら、まずは無料法律相談をご利用のうえ、当法律事務所までお問い合わせください。