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先日、大手飲食チェーンが衛生管理に関するインターネット上の投稿を受け、株価を大きく下げるというニュースが話題となりました。
近年、会社の内情をFacebookやTwitterなどのソーシャルネットワーク(以下「SNS」という)に投稿する等、労働者の内部告発が増えています。
このような社員に対してどのように対応すればいいのでしょうか。ご相談の多い社員のSNS投稿に焦点を当てて企業の取るべき対応について弁護士が解説します。
目次
内部告発とは、企業や官庁等で行われている不正・法令違反を、内部の人間が外部へ伝えることをいい、法律上では「公益通報」と呼ばれます。内部告発について定めた法律が「公益通報者保護法」です。公益通報者保護法は、通報を理由とする不利益取扱いから通報者を保護する民事ルールであり、一定の要件の下、通報を理由とする解雇、免職、派遣労働契約の解除を無効とし、その他不利益取扱いを違法とするものです(公益通報者保護法3条・5条)。
では、どんな通報が「公益通報」になるのか、確認していきましょう。
以下の5項目を満たした通報は公益通報となり、一定の要件の下保護の対象となります。
①通報者→労働者であること【令和4年6月1日から施行された令和2年法律第51号改正にて退職者(退職後1年以内)や役員も追加】
②目的→不正の目的ではないこと【不正な利益を得るものや会社が潰れて欲しい等ではないこと】
③通報対象者→通報する行為は労務提供先であること【雇用関係にある事業者、派遣先、取引先等】
④どのような行為か→通報対象事案が生じ、又はまさに生じようとしていること【対象となる法律(及びこれに基づく命令)に規定された
犯罪行為、又は、違反が最終的に刑罰につながる行為のこと】
⑤通報先→通報先に通報すること【労務提供者又は労務提供先があらかじめ定めた者(事業内部:社内通報窓口や社外顧問弁護士など)
(行政機関:消費者センターや保健所など)(その他の事業外部:マスメディア、消費者団体など)】
内部告発(公益通報)の正当性は、①内容の真実性、②告発の目的、③内部告発の当該組織にとっての重要性、④手段・態様の相当性という4要素の総合考慮により判断されるものであり、内部告発は、正当な行為として法的保護に値し、内部告発者への不利益な取扱いは違法であり許されないとしました。(トナミ運輸事件 富山地裁平成17年2月23日判決参照)
これまで通報者を保護する民事ルールについてご説明してきました。民事ルールによって通報者が守られている一方で、内部告発に違法性がある場合、企業側からすると、懲戒事由に抵触する可能性がある行為であり、特にSNS等への告発行為は企業の名誉・信用を毀損しうる行為です。続いて、告発が適法か違法かの判断がどのようにされているか裁判例から読み解いていきます。また、企業側として、社員が会社の内情等をSNS上に投稿し企業秩序を脅かすリスクに備えるための対応についてご説明いたします。
まず従業員側が企業内部において、当該問題事案について経営改善等に向け然るべき努力をしようとしていたのか、そして、その従業員の努力に対して企業側が適切な対応をしていたのかが争点の1つとなり得るでしょう。
以下、これらの観点から裁判例を見てみましょう。
【事案の概要】
本件は、被告において定年に達した後引き続き1年間の再雇用職員労働契約を締結していた原告が、被告により期間満了後の契約更新を拒絶されたことに関して、被告に対し、(a)更新拒絶をすることは許されないと主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、(b)被告の責に帰すべき事由により原告の労務遂行が不能になったと主張して、同契約に基づいて賃金及びこれに対する各支払期日の翌日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を、労使慣行に基づいて期末手当の支払を、それぞれ求め、さらに、(c)違法に契約更新を拒絶したと主張して不法行為成立日からの民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めている事案です。
【裁判所の判断】
被告は、平成20年4月15日付け解雇を無効とする判決が確定した平成22年3月16日の直後である同月18日、同月16日付けで、原告に対して常任役員選挙へ立候補する資格のない総務部付先任事務職員への配置転換及び無期限の自宅待機を命じたこと、原告は、被告に対して、平成20年4月15日付けを含め、処分の撤回を文書で求めるなどしたが、被告がこれを無視したため、ブログを用いて、被告やその役員を批判することとしており、原告において、被告内部での努力では違法な処分や不当な人事等の是正を期待し得ないと 判断することにも無理からぬものがあったこと、その後も、被告は、原告に対し、平成22年8月1日付けで改めて自宅待機を命じ、平成23年1月21日には被告の組合員としての全ての権利を停止する旨の統制違反処分をしたが、これらの人事等のいずれについても違反又は無効とする判決が確定していること、他の被告の従業員に対する人事に関しても訴訟等において被告が敗訴したものがあること、被告は、本件更新拒絶に至るまで、原告に対し、本件ブログの本文記事やコメントについて口頭注意や文書による警告等を通じて削除要請をしたことがないことが認められるのであり、このような本件ブログの開設及び継続の経緯に照らすと、不特定多数の第三者が閲覧できるブログという手段を用いた点において被告の被る不利益に対する配慮がやや不十分であったことを考慮しても、原告が本件ブログを開設して本文記事を掲載したこと及びコメントの削除等の措置を講じなかったことが客観的に見て本件更新拒絶の合理的な理由となるような不当な行為であったとまではいえない。
したがって、本件更新拒絶(被告において定年に達した後引き続き1年間の再雇用職員労働契約を締結していた原告が、被告により期間満了後の契約更新を拒絶)は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないというべきである。(東京地判平成28年1月29日判決参照)
※なお、原告とは従業員、被告とは企業側です。
Ⅰ【事案の概要】
本件は、原告が、被告の行った懲戒解雇は無効であるとして、被告に対し、雇用契約に基づき、上記懲戒解雇時から定年退職時までの未払賃金(役付手当を含む。)及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
【裁判所の判断】
仮に企業内に看過し難い不正行為が行われていることを察知したとしても、まず企業内部において当該不正行為の是正に向け努力すべきであって、これをしないまま内部告発を行うことは、企業経営に打撃を与える行為として誠実義務違反の評価は免れないものと解すべきであるところ、偶さか知り合いになった週刊Pの記者に対して、いとも容易く本件内部告発①(B元理事長が自らの決裁により理事長の報酬を増額したこと)及び②(B元理事長は、自分が招聘した文科省OBのC氏に理事長を譲ると同時に、自らは顧問として残れるよう再雇用の契約書を部下に命じて起案させ、自分で決裁したこと)に係る事実を告発するに至っており、真剣に被告内部における経営問題等の改善可能性を検討した形跡はうかがわれないばかりか、同月24日に行われた評議員会理事会において、田中千代記念服飾文化研究センター(仮称)構想に賛意を示す理事等はなく、同構想は事実上頓挫したともいい得る状態が生じているにもかかわらず、原告は上記週刊Pの記者に対して、自ら取材協力を申し出て、本件内部告発④(被告より原告への雇止め)に係る事実を告発するに及んでいる。これらの事情に照らすならば、原告は、被告学校法人の内部において、その経営改善等に向け然るべき努力をしようとしないまま本件内部告発に及んだものということができ、そうだとすると本件内部告発は、手段・態様の相当性に欠けるものといわざるを得ない。以上の次第であるから、本件内部告発は正当なものとは認められず、その違法性は阻却されない。(東京地判平成23年1月28日判決参照)
※なお、原告とは従業員、被告とは学校法人です。
Ⅱ【事案の概要】
本件は、被告が設置するD大学において講師を務めていた原告が、スポーツ推薦学生の成績原簿関係書類のコピーを記者会見を行って外部に公表した行為が、「D大学及びF大学教職員の人事及び勤務等に関する規程(就業規則)」所定の解雇事由である「勤務成績不良」ないしは「職務の適格性を欠く」場合に該当するとして普通解雇されたことについて、上記行為は解雇事由に該当せず、本件解雇は無効であると主張して、被告に対し、その地位の確認と賃金の支払(各支払月の翌月以降支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求めた事案である。
【裁判所の判断】
本件の場合、問題とすること自体(学部長におけるスポーツ推薦学生の成績改ざんがあるのではないかということ)は不相当とはいえない が、明らかに違法という問題ではなく、議論の余地のある微妙な問題であり、緊急性は認められず、外部に公表することでスポーツ推薦学生の権利利益に少なくない影響を及ぼすであろうことは容易に推認できることからすると、マスコミに対して記者会見を開いて公表するという方法は、最終的な手段であると解される。しかし、原告(D大学E学部講師)は本件特別措置の制定趣旨や経緯について、被告関係者に説明を求めるなど調査を十分に行っていない。
また、組合内部において本件が議論されたのは記者会見直前の一度のみであり、十分な議論が重ねられたわけではなく、被告との団体交渉の要求事項に掲げられたこともない。大学の一職員として雇用関係上前提となる信頼関係からすれば、大学内部での解決努力が必要であるところ、原告がそれを尽くしたものとはいえない。よって、原告のとった方法は、まず尽くすべき他の手段を講じていないとの非難を免れない。(広島地福山支判平成17年7月20日判決参照)
※なお、原告とは従業員、被告とは大学です。
インターネット上でのSNS利用は一般的になっていることから、企業では、社員が会社の内情等をSNS上に投稿し企業秩序を脅かすリスクに備え、労使間の契約や就業規則などで予防線を張っておくことが重要になってきます。
具体的に、就業規則で、業務上知り得た情報を秘密情報として保持する義務があることを定めるとともに、インターネット上のSNSなどで秘密情報や会社の内情に関する情報を投稿することを禁止することです。関連して、会社が仕事用のパソコンや携帯電話等を支給する場合には、利用ルールを定めて職務時間外や職務に関係のない利用を禁止することも必要です。特に重要と判断される事項については、入社時に別途誓約書を差し入れてもらうと、社員の意識も高めることができて有益です。そして、これらの服務規律や義務に違反した場合には、懲戒事由となることを明記するとよいでしょう。
また、ルールを作って終わらせるのではなく、日ごろから、会社の情報管理を徹底するとともに、社員に対する研修を実施する等して意識を高めていくことが肝要です。
予防策でご紹介した中でも特に、内部通報制度を整備することで、事業者内部の問題がいきなり事業外部に通報されることを防ぎ、問題が大きくならないうちに解決することができます。
労働者意識調査では、労務提供先で不正行為がある(あった)ことを知った場合に、「通報・相談する(又は通報・相談した)」または「原則として通報・相談する」と回答した者のうち、最初の通報先を「労務提供先(上司を含む)」と回答した場合は、内部通報・相談窓口が設置されている場合が約71%であるのに対し、設置されていない場合は約39%にとどまります。(平成28年度労働者意識調査報告書22頁)
当該会社に適合的な内部通報制度を設けていないことが、当該会社の取締役の任務懈怠責任、さらには、監査役の監視義務違反の責任を生じさせる恐れがあるのです。内部通報制度を整備することは、善管注意義務を果たして自己の損害賠償責任を回避する上で有能な方法です。
弁護士は、①社内規定の作成、②通報窓口、③通報内容の調査及び④社内研修を行うことが出来ます。弁護士が通報窓口になることで、法律に沿ってどのようなことが起こったかヒアリング出来るだけでなく、コンプライアンス責任者へ適切な対応についてアドバイスを行うことが出来ます。まず内部で話を聞けることは、いきなり外部へ告発された場合とは異なりゆっくりと対処できるので、不祥事による社会的信用の低下を最小限に食い止めることが出来るでしょう。
弊所でも、「公益通報社外窓口」サービスをご提供しております。ご興味のある方は以下リンク先にてサービス内容をご覧ください。
マスコミや行政機関を通じて不祥事が報道・公表されると、当該企業が不祥事を隠蔽しようとしていたとの疑念を抱かれ、当該企業自らが不祥事を公表した場合とは比較にならないほどの社会的信用の失墜を招く恐れがあります。事業者のみなさまは、就業規則で定めたり、内部通報窓口を設置することで、SNSやマスメディアに通報されることを防ぎ、問題が大きくならないうちに解決できるよう体制を整えておきましょう。
社員の内部告発については
福岡のいかり法律事務所の弁護士にご相談ください
社員の問題行為については、労働法や雇用契約、就業規則に従って、早期にかつ適切に対応する必要があります。必要に応じて、懲戒処分も見据えていかなければなりません。懲戒処分の有効性のハードルは高く、処分後に従業員から訴えられることもあり得るため、慎重に対応する必要があります。
そのためには、労働法の専門家である弁護士のアドバイスが必要不可欠ですので、問題が発覚した段階で速やかに、是非一度、いかり法律事務所の弁護士にご相談ください。
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