投稿・コラム
福岡県福岡市で顧問弁護士・企業法務なら
受付時間9:00~20:00
土日も受付
福岡市中央区高砂1-24-20 ちくぎん福岡ビル8F
投稿・コラム
事業活動を存続させ、拡大・縮小ほか変容させていくためには、柔軟・迅速な組織変動・再編が重要となります。
一方、組織変動・再編に伴い、自社で働く従業員が別の会社へ出向・転籍を求められ、なかには余剰人員として整理解雇などの対象となることもあり、深刻な雇用問題が発生する可能性も忘れてはなりません。
企業の組織変動・再編には、株式の売却とその結果による経営陣の交代や複数会社による持株会社の設立をはじめ、従業員の雇用の消長や労働条件に対して直接的かつ重大な影響を及ぼす合併や会社分割、事業譲渡など多様な形態があります。
本稿では、会社法など関係法令や各規定において解決基準が明らかにされておらず、法的な紛争・トラブルが深刻化しやすい「企業の組織変動に伴う事業譲渡における雇用承継」について解説致します。
事業譲渡(会社法467条)とは、一言でいうと、事業を構成する財産(動産や不動産、有価証券、知的財産権など)のほか、仕入先や得意先、営業上のノウハウなどの事実関係を含む営業上の財産の全部又はその重要な一部を会社間の契約により移転することをいいます。
なお、判例上は、①一定の目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部の譲渡であって、②譲渡会社がその財産によって営んでいた事業活動を譲受人に受け継がせ、③それによって譲渡会社が、法律上当然に会社法21条の競業避止義務を負担することになるものをいうとしています(最大判昭和40.9.22民集19巻6号1600頁)。
実務上は、①及び②の要件を満たせばよいとされ、②の事業活動を受け継がせたといえるかどうかが事業譲渡の当否の判断基準とされています。
③の競業避止義務については、事業譲渡の効果を定めたものに過ぎず、要件としては上記①及び②のみで足り、③の競業避止義務については、事業譲渡の要件として不要ではないかと考えられています。
事業譲渡の種類には、譲渡会社が財産の一部を譲渡して譲渡後にも経営を継続する一部譲渡と、譲渡会社が営業上の財産の全部を譲渡してみずからは会社を解散する全部譲渡があります。
また、一部譲渡の一つとして、譲渡する資産の帳簿価格が、譲渡会社の総資産額の20%(定款でそれを下回る割合を定めたときはその割合)以下であるときに、株主総会の承認が不要になり、反対株主の株式買取権もないなど規制が緩和した簡易の事業譲渡もあります。何が事業の「重要な」一部の譲渡に当たるのか判断が容易でないことに鑑み、一定規模以下の取引(上記総資産額20%以下の資産の譲渡)については、一律に規制の適用を除外することにより、迅速・安全な取引を保護しようとした点にその趣旨があります。
営業上の財産の譲受会社による労働契約の承継には、およそ2つのパターンがあります。
譲受会社としては、営業上の財産を譲り受ける以上、当該事業についてその内容やノウハウについて詳しい又は明るい労働者を雇用する方が有益です。他方、譲渡会社の労働者を承継することによる人員コストの増加を抑え、営業上の財産のみを承継することを希望する場合もあります。
このように、事業譲渡当事会社間(主に譲受会社)のニーズにより、会社間の事業譲渡契約には、①希望する全ての労働者の労働契約が承継される旨の合意がなされるパターンと②譲渡会社が譲渡会社の労働者全てを解雇し、そのうちの希望者から譲受会社が選考の上で採用する旨の合意がなされるパターンが考えられます。
上記①の合意がある場合には、一般的に、転籍により譲受会社に労働関係(雇用関係)が承継されることになります。この場合、転籍する当該労働者の承諾が必要となります(民法625条1項)が、当該労働者が明示の承諾をせずとも、勤務を継続することにより黙示の承諾があったとみなされる場合もあります。
上記②の合意がある場合には、一般的に、譲受会社は承継する労働者を選考し、採用手続を開始することになります。この場合、労使間の合意により労働契約が成立することになります(労働契約法6条)。
事業譲渡における労働契約の承継に際して、もっとも法的紛争・トラブルが発生しやすいのは、譲受会社が、譲渡会社から移ることを希望した労働者を不採用とした場合です。
この場合、不採用とされた労働者による譲受会社との労働契約関係を主張できるかが問題となります。
通常であれば、合意が成立していない以上、労働者に労働関係の主張はできないはずですが、事業譲渡契約に伴う労働契約の承継であるため(つまり事業譲渡契約を行った会社間の都合によるものでもあるため)、かかる労働者の主張が認められるのではないかが問題となるのです。
事業譲渡契約は、会社財産が包括承継される合併や会社分割と異なり、個別の取引・契約により、各財産が(イメージとしては)一つ一つ譲渡されるものであるため、当事会社が労働契約を承継する旨の特段の合意をしない限り、譲渡会社の労働者の労働関係まで当然に承継するものではありません。
そのため、上記②の合意がなされた場合、不採用の労働者は、譲受会社に対して労働契約上の地位確認等請求を主張することができないのが原則です。
上記の通り、事業譲渡契約の債権契約としての法的性質上、合意のないもの(譲渡会社の労働者との労働契約)については、承継されないのが原則ですが、実務上は、各事案に応じて多様な論拠により、労働者と譲受会社との間の労働契約の成立が認められています。
たとえば、事業譲渡がなされて、形式的には使用者が代わっても、労働者の属する営業組織又は事業に高度の同一性があるときには、雇用も承継されるのが原則であると考えて、事業譲渡契約における労働関係の承継を肯定する場合があります。
営業上の財産は、物的要素である有体・無体の財産と人的要素である労働者とからなる有機的な統一体であり、法人格の変更があっても、営業組織が高度の同一性を有していれば、労働契約は承継されると考えられるからです(新関西通信システムズ事件・大阪地決平成6・8・5労判668号48頁参照)。
このように、事業譲渡における労働契約の承継に関する論拠については、予測が立ちにくく、譲受会社および承継される労働者両者にとって法的に不安定な状況にならざるを得ないという問題の発生が考えられます。
その中で事業譲渡契約における当事会社の取るべき又は取り得る対応としては、まず、譲渡会社においては、承継の対象となる当該労働者に対して、可能な限り事業譲渡の経緯や事情(開示できる範囲で)、当該労働者の雇用関係について説明や面談の機会の設定、不採用となった場合の代わりの就業先の紹介などの措置について検討しておくべきたといえます。
また、譲受会社においては、基本的なスタンスとして、事業譲渡の契約の法的性質から労働契約の承継は当然には認められないという対応を取りつつも、実務上、事業譲渡当事者間の組織・事業内容が実質的に同一と言えるような場合には、特定の労働者との労働契約の承継を否定することは認められない可能性があることを承知しておくべきだといえます。
本稿では、法的な紛争・トラブルが深刻化しやすい「企業の組織変動に伴う事業譲渡における雇用承継」について解説しましたが、実務上、事業譲渡契約に伴う労働契約の承継問題については、譲渡契約当事会社の組織・事業の同一性など事実認定、法的判断が難しい局面が想定されます。
事業譲渡に係る紛争・トラブルを未然に防ぎ、円滑な取引を行うためには、弁護士など組織再編に詳しい法律の専門家に相談しながら進めることが大切です。事業譲渡を検討している、事業譲渡についてトラブルが発生する可能性をチェックしたいなど、事業譲渡をはじめ会社の組織再編について何か少しでも気になることがあれば、お気軽に組織再編に詳しい弁護士の在籍する弁護士法人いかり法律事務所へご相談下さい。
初回相談無料
お電話でのご予約
092-707-1155
受付時間 9:00~20:00(土日も受付)
遠方の方やお忙しい方でもWeb面談可能
お問合せフォームでご予約受付時間 24時間