働き方改革・テレワーク
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働き方改革・テレワーク
日本では、少子高齢化に伴い生産年齢人口が減少し、育児や介護との両立などの多様化などを背景に、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが政府あげての国家的課題になっています。そこで、働き手の個々の事情に応じて多様な働き方を選択できる社会を実現するため、2019年4月1日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号、以下「働き方改革関連法」といいます。)が施行されました。「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」と「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」を柱として、労働基準法、労働安全衛生法等の労働関連法令が改正されました。
従来は時間外労働の上限はありませんでしたが、時間外労働の上限について、原則として月45時間・年360時間と設定され、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。例外的に、臨時的な特別な事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内・単月100時間未満(休日労働含む)・複数月平均80時間(休日労働含む)が上限となります。原則である45時間を超えることが出来るのは、年間6か月までです。
ただし、自動車運転業務、建設事業、医師等について、猶予期間を設けた上で規制を適用等の例外があります。研究開発業務について、医師の面接指導を設けた上で、適用除外されます。
月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置が廃止され、25%から50%へ引き上げられます。
使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し5日について、毎年、時季を指定して与えなければなりません。ただし、労働者の時期指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はありません。
裁量労働制が適用される人や管理監督者も含めて、すべての人の労働時間の状況を省令で定める方法(=使用者の現認や客観的な方法)により把握しなければなりません。
フレックスタイム制の労働時間の調整が可能な期間である「清算期間」の上限が1ヶ月から3ヶ月に延長されます。
職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、 本人の同意や委員会の決議等を要件として、 労働時間規制(労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定)が適用除外とされます。
事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息(インターバル)の確保に努めなければなりません (労働時間等設定改善法)。努力義務規定です。
産業医の選任義務のある労働者数50人以上の事業場では、事業主から産業医への情報提供や産業医による労働者の健康相談等が強化されます。
いわゆる同一労働・同一賃金の原則を導入するものです。同一企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者(短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、当該待遇の性質・目的 に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨を明確化し、不合理な待遇差を設けることが禁止されます (パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法) 。
短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者について、正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明が義務化されます (パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)。
1の義務や2の説明義務について、行政による履行確保措置及び行政ADR(都道府県労働局にて無料・非公開の紛争解決手続き)が整備されます。
働き方改革の流れのひとつとして、従来より、政府は情報通信技術を利用して時間や場所にとらわれない在宅勤務などの「テレワーク」の普及推進を行ってきました。2020年に発生した新型コロナウィルスの緊急事態宣言に伴い「テレワーク」(リモートワーク、在宅勤務)が推奨され、大企業だけではなく中小企業においても、事実上強制的にこのような広い意味での働き方改革が一気に加速しています。これにより、 柔軟な多様性ある働き方が一時の取り組みに留まることなく、今後の日本社会の「ニューノーマル」になるという見方も強くなってきています。今まさに日本企業は、大企業も中小企業もこのような時代の変化に伴う新しい波に乗っていけるかどうかという過渡期にあると言えるのです。
他方、テレワークを行う上での問題や課題等としては、仕事と仕事以外の切り分けが難しく、また長時間労働になりやすいという問題があり、これらを防止するためにもいかにして労働時間の管理等を行っていくかが大きな課題となっています。
労働基準法上の労働者については、テレワークを行う場合においても、労働基準関係法令(労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法など)が適用されます。したがって、これらの法令を遵守する必要があります。
テレワークの導入にあたっては、厚生労働省が策定した「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」( 平成30年2月22日策定)が大変参考になります。労働基準関係法令との関係で留意すべきポイントなどが網羅的に記載されています。
使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。働き方改革においても改めてこの点が強化されました。テレワークにおいても労働時間を適正に把握する必要がある点は変わりません。具体的管理方法として厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に従い、適切に管理することが求められます。
在宅勤務等のテレワークに際しては、一定程度労働者が業務から離れる時間(いわゆる「中抜け時間」)が生じやすいと考えられ、そのような時間の具体的処理方法が問題になります。
このような時間について使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れて自由に利用することが保障されている場合には、以下の方法が可能です。
通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワークは、使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われるものは労働時間に該当します。
午前中だけ自宅で勤務をしたのち、午後からオフィスに出勤する場合等、勤務時間の一部でテレワークを行う場合があります。こうした場合の就業場所間の移動時間が労働時間に該当するのか否かについては、使用者の指揮命令下に置かれている時間であるか否かにより、個別具体的に判断されます。
使用者は、原則として休憩時間( 労働者に対し 労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間)を労働者に一斉に付与しなければなりません(労働基準法第 34 条第1項、第2項)。
しかし、テレワークを行う労働者については、労使協定により、一斉付与の原則を適用除外とすることが可能となります。
なお、一斉付与の原則の適用を受けるのは、労働基準法第 34 条に定める休憩時間についてであり、労使の合意により、これ以外の休憩時間を任意に設定することは可能です。
これは、清算期間やその期間における総労働時間等を労使協定において定め、清算期間を平均し、1週当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内において、労働者が始業及び終業の時刻を決定し、生活と仕事との調和を図りながら効率的に働くことのできる制度です。テレワークでもフレックスタイム制を活用することが可能であり、労働者の都合に合わせて士業や就業時間の時刻を調整でき、「中抜け時間」の問題も解消します。
フレックスタイム制の導入に当たっては、労働基準法第32条の3に基づき、 以下の手続きが必要となります。
なお、あくまで始業・終業の時刻を労働者に委ねる制度のため、労働時間の把握が必要です。
使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、事業場外みなし労働時間制が適用されます(労働基準法第38条の2)。具体的には、以下の①と②の2つの要件をいずれも満たす必要があります。
これは、情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であることを指します。
たとえば、回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや通信可能な状態を切断することが認められている場合や、会社支給の携帯電話等を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合などはこれにあたります。
当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更の指示をすることは②に含まれません。
事業場外みなし労働時間制を適用する場合、テレワークを行う労働者は、就業規則等で定められた所定労働時間を労働したものとみなされます(労働基準法第38条の2第1項本文)。ただし、業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、当該業務に関しては、当該業務の遂行に通常必要とされる時間を労働したものとみなされます(労働基準法 第38条の2第1項ただし書)。
→当該事業場内の労働時間と「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」の合計が労働時間となります。
ただし、この制度の下においても、勤務状況を把握し、適正な労働時間管理を行う責務を有します。実態に合ったみなし時間となっているか確認し、実態に合わせて労使協定を見直すこと等が適当です。
裁量労働制は、労使協定や労使委員会の決議により法定の事項を定めて労働基準監督署長に届け出た場合において、対象労働者を、業務の性質上その適切な遂行のためには遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務に就かせた場合には、決議や協定で定めた時間労働したものとみなされる制度です(労働基準法38条の3、4)。この制度もテレワークに活用できます。
ただし、この制度の下においても、勤務状況を把握し、適正な労働時間管理を行う責務を有します。また、労働者の裁量が失われていないか等を労使で確認し、結果に応じて、業務量等を見直すことが適当です。
働き方改革関連法を受けて、大企業だけではなく中小企業も就業規則や運用の見直しを迫られています。また、中小企業もテレワークなどの新しい働き方に柔軟に対応していく状況に迫られています。いずれについても、上記のとおり、労働基準法などをはじめとする法制度の法的知識の理解が必要不可欠であり、労働法に精通している弁護士に相談して、弁護士からのアドバイスの下で進めていくことが有益です。いかり法律事務所では、福岡県をはじめとする地元の中小企業の皆様の働き方改革を応援しておりますので、お気軽にご相談ください。
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